大仁橋の右岸にあるのは水晶山である。とても小さい山であり、伊豆半島ジオパークの案内板にもSuishozan Mound=水晶〈丘〉と表記されている。川を挟んで所在する城山の猛々しい相貌とはまるでかけ離れているが、ここも火山由来の石英安山岩から成る岩塊だ。地質図では周囲を堆積岩に囲まれて孤島のように色塗られている。山の側面には藤が盛んに花を咲かせ、常緑樹に覆われた山に紫の彩りを添える。地元住民の方々により散策路が整備されており、ほんの数分で頂上に達した。頂上は東南東に開けていて、川向かいの集落を俯瞰した。
水晶山から下りて伊豆市へと入り、狩野川の堤防上の道に出た。見渡せる野山には若緑の模様が入り乱れ、その向こうへと目を凝らせば、うっすらと高山の稜線が霞んでいる。あれは天城山の一部だったかもしれない。河口からの距離を示す道標には鮎が描かれている。青藍なる狩野川の水面の向こうに泳ぐ鮎を幻視した。前方を向けば薄雲が空に流脈模様を描く。春風のなかを泳ぐように揺蕩うように歩いて行った。
駿豆線の牧之郷駅まで歩いた。堤防を下りる前に振り向けば、遠くなった水晶山は自分の拳よりも小さく見えた。元々は水晶が採れたことにより山の名前が付いたと思われるが、球体のような丸い形は水晶玉を思わせる。
その後は修善寺の伊豆半島ジオパークミュージアム・ジオリアを見学したり、残った時間で温泉街を散策したりした。楽しかった静岡県東部の旅もこれで終わりであり、この後は三島に戻って新幹線に乗らなくてはならない。修善寺駅から発車する三島行き電車には下校中の小学生が多く乗っていて賑やかだったが、すぐに降りていった。おふざけな男子児童がたった1駅のために全開にしていった窓からは、涼しい風が吹き込んでくる。その心地よさが眠気を誘い、ぼんやりと外を眺めてこの3日間のことを思い返していた。