若葉のとき こころ溶かして 愛知県豊川市 #1

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 偏西風が春の嵐と穏やかな晴天とをかわるがわる連れてくる4月、三河の山野はどこも生命の息吹に満ち溢れている。きのう電車から眺めた西三河の野山も、いま目の前に近づいてきた山地もそうである。低気圧が通れば三河湾から南風が吹き込んでくる。その暖かな風と慈雨に養われた木々は文字通り多彩な若葉を茂らせて、もこもこと旺盛に膨らんだ山林の総体は真夏の空に立ち上る積乱雲のようだ。三河に来てみると、まるで山野の木々がこの地を気に入っていてここがいいと言い張っているかのように元気に見えていた。

 私は愛知県の東三河地方を巡る旅の2日目を豊川市で迎えた。前日の朝には温帯低気圧と前線が通り過ぎ、花を散らす雨となった。加えて今年は早い時期から暖かい日が続いていたので、旧東海道に沿って流れる音羽川の堤の桜並木のなかにも、すでに葉桜になっているものがある。それでも橋の上から見れば見事な桜並木で、ここは豊川市の名所になっている。

 名鉄の国府駅から南西の山に向かって歩き、途中では旧東海道も少し歩いて、東三河ふるさと公園までまた歩いた。ここは旧御油町と旧御津町の間を隔てる自然の山を利用して作られた自然公園である。平日であったものの、多くの人たちが花見に訪れて賑わっていた。管理棟の前には修景庭園があり、三河湾に見立てた池に蒲郡市の竹島を模した小島が浮かぶ。この池に集まる野鳥をカメラに収めようとする人たちもいれば、満開の牡丹桜の下の芝生でお弁当を楽しむ人たちもいる。昼過ぎまでは、御油のまわりをうろついて、その後は豊橋や田原市の方面に出てみようかという予定だった。

 整備された散策路を上へ上へと歩いていく。東三河に来るのはこの旅が初めてなので、地域をひとめに見渡せる高い場所に来たかった。散策路の道中にはところどころ展望の開けた東屋があって、眼下に広がる街を挟んだそのちょうど向かいに本宮山が座している。なだらかに西に延びた稜線は厳しさよりもやさしさを印象付ける。豊橋平野に広がる豊川や豊橋の市街はつねにこの山に見守られている。

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