みのりのマンダラ 和歌山県有田川町 #4

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 三田の街道に降りて、山椒のソフトクリームを食べた。ゆるやかな坂を下ったところの道の駅で、最終バスまでの時間をつぶした。農村を囲む山のふちに、太陽が潜ってゆく。少しの買い物をした私は駐車場のテーブルで休んでいた。閉店間際の道の駅にも、まばらに客がやってくる。バイクツーリングの2人組、出張の公務員、ドライブに来た老夫婦……彼らを見送るたびに空が暗く淡い橙色に薄れていった。木を採ったばかりの杉林の輪郭が、逆光のために目立っていた。

 国道には間欠的に車列が走り過ぎ去る。最終バスを逃さぬように、やや大げさに手を挙げてバスを停めた。
「さっき三田のところでアイス食べよった人か?」
気さくな運転手さんは、清水行きのひとつ前の便にも乗っていたようだ。このバスはその折り返しである。有田川は闇に沈んで、対岸に集落が現れてもわずかな家明かりだけしかわからない。唯一、前後にハロゲンライトの列が長く続いている。
「ちょうどいまが、仕事終わった人らが帰る時間なもんですね。混んできた。」
有田方面から清水や花園に働きに来る人々もそこそこいるようだ。

 そのような話をしているうちにバスは平地の金屋地区まで降りてきた。往路はみかん畑に囲まれ、鈴生りの果実が昼間の銀河のように野に広がっていた。彼らが隠れ、代わりにほんとうの星空の下を走る復路である。
「私も和歌山県出身なんですけど、南のほうなので有田地方はなかなか来たことがなくて。ちょうどみかんの時期に来れましたね。あしたは有田市に行きます。」
「やっぱりね、ここらへんやとついそこらの無人販売所で1袋100円や200円でみかん売りよるですね。こんなん言うたら農家の人に怒られるかもしれんけど、ちょっと酸っぱいくらいのが美味いですね。」
私も同じ意見だった。

 終点の藤並駅まで運転手さんと2人だった。駅から少し歩いた食堂では、みかん農家と思われる人たちが宴会をしていた。小さなテーブルを10人ほどが囲んで、狭い店内では少しうるさいほどに賑やかだった。料理を待つ間、あの曼荼羅のような清水の風景を思い出せば、少し現実離れするような気分だった。

(終)